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土地の名まえを紐解く、旅のエッセイ―梨木 香歩『鳥と雲と薬草袋/風と双眼鏡、膝掛け毛布』感想

梨木 香歩『鳥と雲と薬草袋/風と双眼鏡、膝掛け毛布』新潮社(2021)


「土地の名まえ」の背景には、いつも物語がある。そこに暮らす、人々の息遣いがある。峠や湖川など、地形に結び付いた名まえ。植物や動物に由来する地名。街道や国境など、人の営みを巡る地名。音やまなざしからつけられた名まえ。消えた地名、新たに生まれた地名…。空を行きかう鳥や風のようにのびやかに、旅した土地の名まえから喚起される思いを綴る、二作の葉篇随筆を合体した文庫版。


梨木香歩さんの本を読み始めたのはここ数年の話。好きな作家さんは、物語を何作か読んだ後に、エッセイが読みたくなる。

本書を開くとまずはじめに日本列島の地図が載っている。

そして、文中で取り扱っている土地の箇所に番号と地名が振られ、紐づけられている。

世間知らずの私にはまったく馴染のない地名がたくさん。

まるで知らない国の旅のガイドブックを手にしたような、不思議な気分になる。

本文に入ると、地名は至って感覚的に並べられている。

温かな地名の項目であれば、「日向」「日ノ岡」「椿泊」等々。

峠についた名前の項目であれば、「善知鳥峠」「星峠」「月出峠」「冷水峠」「杖突峠」。

ざわっとする地名、なんていうのも。「姨捨」「毒沢」「銭函」「花市場」「無音」―


消えた地名、新しく生まれた地名にも目を向けられていて、苦々しく感じたり、馴染みの観点から住民の想いに寄り添っていたり、と「土地そのもの」への視点がさすがだと感じた。

自分も常々、地名は先人のメッセージだと思っているので、一過性のある施設名やカタカナを多用した名称で、由緒ある地名を塗りつぶすのにはやるせなさを覚える。

本来、地名を見れば、その土地の特性がそこはかとなく感じ取れるものなのだから。

それにしても全国各地をよく巡られているのだなと感心してしまう。

この作家様は、どちらかというと勝手に海外のイメージがあったのだが、車で、徒歩で、時に趣味のカヤックで、気にかかる場所があればどこまでも出かけていく。

そのなかで、道は利用する者がいなければ自然と消滅してしまうため、「歩かなければ」という文が印象的であった。


行ってみたい場所がたくさん増えた読書体験であった。

読了までに半年ほどかけて職場の休憩時間に読み進めたのだが、そのたびに各所へ旅に出た気分になれたので、隙間時間に刻みながらでも楽しめる一冊として推したい。




今日も最後まで読んでくださりありがとうございました!(^^♪
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