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イスタンブールの下宿を舞台に描かれる、眩しくも、儚い青春物語―梨木香歩『村田エフェンディ滞土録』感想

梨木香歩『村田エフェンディ滞土録』(2004.5) 角川文庫

時は1899年。トルコの首都スタンブールに留学中の村田君は、毎日下宿の仲間と議論したり、拾った鸚鵡に翻弄されたり、神様同士の喧嘩に巻き込まれたり…
それはかけがえのない時間だった。
だがある日、村田君に突然の帰還命令が。
そして緊迫する政情と続いて起きた第一次世界大戦に友たちの運命は引き裂かれてゆく…
爽やかな笑いと真摯な祈りに満ちた、永遠の名作青春文学。

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本文にて、イスタンブルが「スタンブール」とされているのは、やはり「イ」が冠詞なのだろう。

そういえばマルタ共和国の都市でも、アラビア人によって名付けられた「イムディーナ」が現地の表記では「ムディーナ」となっていたので、そういうことかなと思っている。

◇読みどころ

この本の舞台は、トルコの首都イスタンブールの下宿である。

この下宿に住まう住人が多国籍であり、非常に面白い。


下宿屋の主は、英国人のディクソン夫人。宿を営むかたわら、トルコ人女性の社会進出を手助けしている。

夫人に雇われているトルコ人奴隷のムハンマド

ドイツ人考古学者で堅物なオットー。

ギリシャ人(自称・ビザンティンの末裔でもある)考古学会員の美男子ディミトリス。

そして、日本から史学科在籍の講師の身分でやってきた村田。

エフェンディというのは、学問を修めた人物に対する敬称だそうだ。
(日本でいう商売人が「先生」と呼ぶような印象、だと文中にある)


この頃のトルコは欧米列強につけこまれる「瀕死の病人」であり、それゆえイスタンブールは人種のるつぼ、と化していた。

この下宿も、一種の縮図となっており、信仰ひとつとっても興味深い。

クリスチャン、ムスリムギリシャ正教徒、仏教徒

そこに、下宿で飛び交う議論の中心でもある、考古学や歴史の観点が付与される。

ここにそれぞれの人生観や、お国柄が垣間見えて、非常に面白い。


しかし、それだけではない何かが。描かれていることが後半から感じ取れる。

やはり、国籍を超えた、青春劇なのだ。

そして、神々を幻視するような描写もあるのだが、それは愉快であり、かつどこかリアルな感慨がある。

◇感想

いや、久々に泣いた泣いた。そして、この満足感は何だろうか。

東西の文化の混じりあう土地として、独自の文化が根付き、非常に興味深い。


現在のイスタンブールという都市の統治時代は、ややこしい。世界史の知識を要する。

ローマ帝国ビザンツ帝国、そしてオスマン帝国の首都として、栄えた歴史がある。


◇かんたんな歴史◇
古代ギリシャの植民地ビザンティウムという土地

4世紀にコンスタンティヌス一世が、ローマ帝国の東の新都「コンスタンティノープル」とした。

西ローマ「滅亡」後も、東ローマ帝国(ビザンツ帝国)の首都として文化を誇ったコンスタンティノープル

15世紀に、オスマン帝国のメフメト2世により陥落する。

オスマン支配下となり、「イスタンブール」となる。


詳しくは、塩野七生さんの『コンスタンティノープルの陥落』を参照されたい。


この『村田エフェンディ〜』は、私の友人のアイリスちゃんにおすすめしてもらったものだ。

以前、読了記事であげた皆川博子さんの『U』を読んでくれて、お返しにおすすめしてもらった。

アイリスちゃんは、トルコに行ったことがある。いいな~(´Д⊂ヽ

私が在籍していた史学科では、トルコは非常に人気だった。

やはり、本だけでは飽き足らず、私もいつか現地に赴きたい所存である。


ウッ。。それから私も、もっと歴史に本気で取り組んでみたい人生だった。。



今日も最後まで読んでくださりありがとうございました!(^^♪

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