塩野七生『想いの軌跡』 新潮社(2018)
地中海はインターネットでは絶対にわからない。陽光を浴び、風に吹かれ、大気を胸深く吸う必要がある―。単身ヨーロッパに渡り、思わぬきっかけで作家デビューを果たして半世紀。歴史的大ヒット作となった『ローマ人の物語』誕生秘話から、日々の暮らし・ライフスタイル、忘れがたき友人たちへの想い、遙かな地より祖国に宛てた手紙、仕事術まで。折々に綴った珠玉のエッセイ、その集大成。
第一章 地中海に生きる
第二章 日本人を外から見ると
第三章 ローマ、わが愛
第四章 忘れ得ぬ人々
第五章 仕事の周辺
楽しめた点 三選
塩野七生さんのエッセイということで、芯のある彼女の価値観にたくさん触れることができた。
塩野さんは、今なおイタリア・フィレンツェに在住し、その地で歴史小説を書き続けている。
女性としての価値観
第一章の「地中海に生きる」では、女性のありかたについていくつか言及されているのが面白かった。
半生をイタリアで過ごした彼女の目を通すと、日本人女性は「姿勢が悪く、脚の表情に無神経」であると。
高価でセンスのいい服装を身に着けていても、これは欧米の基準におくと女を放棄することを意味する、とも。
この見解には、ははぁと平伏すしかない。さすが、痛烈である。
人間としての塩野七生像がうかがい知れて、いちファンとしては共感したり、苦笑いしたりと非常に愉快だった。
東西交流について
特に興味深かったのは、第三章「ローマ、わが愛」の章だ。
「”シルクロード”を西から見れば…」では、古代ローマでも愛され嗜好品として好まれた「絹」に話が始まり、東西交易について語られる。
最高の文明である唐が東に興隆したころ、西は西ローマ帝国崩壊直後で、そのまま暗黒の中世に突入する。
塩野先生は、この格差が残念でならないという。
東は唐、西は古代ローマの全盛期(実際のこの頃の中国は漢)と、文明がかち合って入ればさぞかし興味深かっただろう、と。
織田信長への言及
信長について、悪魔的な魅力を持つ男であると、様々な意見を用いて述べていた。
彼女が小説で生涯を描いた、西洋のチェーザレ・ボルジアやフリードリッヒ二世のような、男だと。
改めてこの先生は、歴史上の人物に血を通わせ、惚れ込むことで物語を書いているんだな、と実感した。
確かに、彼女の描く男たちには、歴史の教科書ではまったく感じたことのない色気がある。