印象をただよう告解部屋

キラリと思い浮かんだことあれこれ

静かな軽井沢の夜。或いは、タタール人の砂漠について

長野へ嫁いだ同僚が、軽井沢で結婚式を挙げたので、先輩と一泊二日で滞在。

とにかく出発から次の日まで楽しくて、素敵な小旅行。

休日二日のちょいとハードスケジュールで強行。夏休み。


当然パッキングとヘアセットで当日は寝不足となりました。

駅に着いたとたん、爽やかな気候で、息をのむほど山々の景色が美しくて。


トゥクトゥクみたいな車に乗って、花咲き乱れる箱庭のような敷地を、チャペルまで進みます。

ところどころに、ドイツのようなメルヘンな建物群。橋。

チャペルは、木のあたたかみのある素敵な建物。

祭壇の奥からは眩いばかりの光が差し、格子で細かく切り取られた山の緑が見えました。

祝福のリーフシャワー。


童話のような世界で、ナチュラルという言葉が似合う花嫁は本当に美しくて、可愛くて、私たちもめいっぱい幸せを浴びたのでした。

仕事で会えなくなるだけじゃなくて、遠方に行ってしまうのが超絶寂しくて。

もう一緒に飲みに行けなくなるのかと。

でも本当に幸せそうで、そんな考えも吹き飛びました。


大好きな先輩と二日間めいっぱい一緒に過ごせたのも嬉しくて。

式の翌日は美術館に行くのを、ついてきてくださって、私の話したくてたまらない解説やら考察を延々聞いてくださった。女神哉。


入社直後は、なんとなく関わり合うことはないだろうと思っていたお方なので、不思議な感じ。

なんというか、ファンが多い人気者の方で、誰もが認める「今風」な美女だから、畏れ多くて。

異動後、部署が一緒になって今では一生話を聞いてくださるので甘えまくっている。


まだ余韻に浸っているので、今夜はちょいとクールダウン。


会場では、センスのいい音楽がシーンに応じて流れる。

J-POPから、洋楽まで。

ライブ好きの新郎新婦がたくさん相談して決めたそうな。


改めて結婚式って、ふたりの色が出るから素敵だと思う。

華やかなブランディングだ。

会社の友達とかだと、会場の席や結婚式のムービーではじめて家族構成や、生い立ちを知ることが多い。

花嫁はうりふたつの双子で、姉妹のツーショットがありえないくらい可愛かった。


和やかな祝福ムードのなか、夜は更ける。

庭には、たくさんのあかりが灯る。



夢見心地のまま、またトゥクトゥクのような送迎車に揺られて、リゾートホテルの入口まで。


この光景、味があると思う。

ハンガリーの画家、チョントヴァーリの絵みたいで。


アテネ新月の夜、馬車での散策』(1904)


ホテルに到着。

高いピンヒールと、丹念に編み込まれたヘアスタイルから解放され、ラウンジのバーへ。

夜も遅いので入ると同時にラストオーダー。

中央に本物の焚火と、そのまわりを水が流れるテーブル。



私はもう披露宴でじゅうぶんのお酒を飲んでいたので、ホットウーロン茶。

先輩は、一日通して5杯以上は飲んでいたのではなかろうか。でも全然酔った感じはなかった。

普段言えないような、苦手な人のこと、会社の嫌なとこ、たくさん毒を吐き出し。

それは軽井沢の自然が浄化してくれるはず。

人付き合いにいい意味で淡泊で、でも他者から好かれる要素しかない先輩にも、ストレスはたくさんあるんだなぁと思った。

内容の違いはあれ、悩みは誰にでもあるのだなぁと。

逆に先輩は、私の人付き合いへの姿勢を、「よくやるわ。疲れるでしょう」と感心するそう。


その後、ペットボトルのラベルに「韃靼蕎麦茶」とあったので、反射的に私は「タタール人!」と口走ってしまう。

先輩は課長から『サピエンス全史』を半ば強引に読まされているから(気の毒)、ちょっと世界史に興味が出たそうで。


新幹線移動中にブッツァーティタタール人の砂漠』を読み終えたので、そのあらすじと結末を話しました。

(ふたりとも疲れとアルコールで、多分ぼーっとしてた)


重要拠点でもない古い砦に配属された若き軍人ジョヴァンニ・ドローゴ。

前方には「タタール人の砂漠」と呼ばれる荒地が広がるばかりの不毛な地。

始めは街へ帰ることを強く望むが、しだいに習慣からくる居心地の良さと根拠なき使命感から、自発的に砦を離れられなくなる。

砂漠に潜むタタール人の襲来(これは伝説的なつくり話だ)に備え、北を見張り続ける。

果てしない習慣の繰り返しのなか、歳月は過ぎる。そしてー


何も起きないのが、逆に恐ろしい話だ!!と笑いあった。

「これ、まさに今の私たちでは」と。


焚火のはぜる大きめの音にびっくりして、また笑い。

しばらくすると、バーテンダーが閉店ですと声をかけに来た。

本当に夢みたいな夜でした。


今の環境は、砦というよりネバーランドですかね。

いつまでもこうしていられないのは、わかってますけども。


「嫌だなぁ。またあの閉塞的な窓のない職場に戻るの」

「ですね。窓越しにたまには太陽光浴びて、日が沈み切る前に帰りたいですよね」

「一日中、同じ明るさで気がおかしくなる。一日中、機械の稼働音でうるさいし」

「木漏れ日と鳥のさえずりになればいいのに、ですね」


でもこうやって、会社を飛び出して楽しいこともありますからね。

まぁ、人生の道筋に正解なんてないでしょ。

少なくとも私は、「静かなこの夜に」たどり着けて良かったと思っています。

時間が過ぎれば想い出は優しくなる、みたいですし。




今日も最後まで読んでくださりありがとうございました!(^^♪
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