ドイツ人男性と結婚し、想像もしなかったオーストリアでの田舎暮らしが始まった。朝は、掃除と洗濯。午後には買い物に。当初はお肉屋さんに行くも注文が伝わらず、動物の鳴き真似をしたことも。晴れた日には、自らスコップを握り、汗だくになっての庭造り。慣れないドイツ語の学習には四苦八苦。女優・中谷美紀のかけがえのない日常を綴った日記エッセイ。
オーストリア、ザルツブルクにて中谷さんが過ごされた約三か月間の暮らしを読むエッセイ。
中谷さんの旦那さんは、ドイツ人でありウィーンフィルハーモニーのヴィオラ奏者ティロ・フィフナー氏。
コロナが世界的に騒がれ始めたころ、旦那さんの迎えにより自然豊かなザルツブルクに飛び、家事に、ドイツ語の勉強に、子育てにと多忙な日々を過ごす。
◇庭仕事とお料理への情熱
ザルツブルクには広大な自然がある。
山があり、川がある。そして、自宅には大きな庭があるのだ。
コロナ禍により在宅時間が増え、ガーデニングやDIYが世界的に流行りに流行っているそうな。
多年草に宿根草、ハーブに苔を庭に植え、夫婦間の「ガーデニング哲学」を実践する。
風が種を運び、ときに予想外のところから芽吹くのも楽しみのひとつという。
ガーデニング界にも「多様性」を愛でる考え方が提唱されているのだとか。
そして、中谷さんといえば、お料理!
これは本当に舌が肥えておられるのだなぁと思った。
インスタグラムにも洗練された数々のお料理がアップされていた。
オーストリアはドイツに先駆けてエコ先進国ということで、オーガニックの野菜や果物の取り扱いが徹底されているという。
読んでいたら、さまざまなこだわりの素材を選び、こんなに楽しくお料理できるのって、本当に素敵だなと思った。
◇語学勉強について
中谷さんは、若かりし頃にフランス居住歴があるため、フランス語と英語を流暢に話すことができるという。
このエッセイには、ドイツ語習得の奮闘ぶりが描かれている。
中谷さんは、オンライン授業で実践的なドイツ語の習得に努められている。
フランス語、英語が(韓国語も話せるとか)ペラペラでも、また新たな語学を身に着けるって、やはり本当に一筋縄ではいかないのだなと語学習得の困難さを痛感する。
自分も大学時代にドイツ語を履修したが、ドイツ語は男性名詞に女性名詞に…中性名詞がある。
格変化と冠詞が圧倒的に難しい。
(というか、私は英語も十分にできないので、それ以前の問題だけど)
方言とかによる違いもあるから、ちょっとしたコミュニケーションもはじめは大変とあった。
◇家族のかたち
この本の執筆時点で6歳である中谷さんご夫婦の娘さん、Jちゃんは夫の連れ子である。
娘さんの生みの母であり、旦那さんの元パートナーの女性とも協力しながら、子育てをみんなで行う。
しかし、ヨーロッパではこのようなパッチワーク家庭はなにも珍しいことではないという。
そして、旦那さんの元パートナーの女性にも現在のパートナーがおり、むろんその男性も子育てを協力し合う。
そしてその男性にも連れ子の娘ちゃんがおり、Jちゃんと年が近くて、仲良くしているという。
『サザエさん』よりも、『渡る世間は鬼ばかり』よりも血縁関係がないぶん、フクザツな家族像である。
カルチャーショックを受けるとともに、改めて合理主義な国民性だからこそ根付いた文化なのかなと感じた。
ヨーロッパでも特にドイツは、そんなイメージが強い。
男女平等のもと、男性も積極的に育児に参加する。
そのぶん、女性の方が稼ぎがあれば、例えば別れるときの経済的なあれやこれやも平等。
別れたあとも稼ぎ柱であった女性側が、男性側にお金を送り続けることもあるという。
極端な話、イスラエルでは、男女平等に兵役もあるというし。
真の男女平等ってこういうことだ、と思う。すべてフェア。
それがいいかどうかは置いておいて、女性の社会進出をと声高に叫ぶならば、相応の覚悟がいるということかとぼんやり。
◇
日記調で書かれており、まるでブログを読むような感覚ですいすい読めた。
時事や自論も交えつつ綴られる、知性あふれる文章が、とにかく良い。
今度は、旅行エッセイ『インド旅行記』も読みたいと思う。
今日も最後まで読んでくださりありがとうございました!(^^♪