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「怖い絵」著者による美術エッセイ集。中野京子『そして、すべては迷宮へ』感想

中野京子『そして、すべては迷宮へ』
文藝春秋, 2021/03/09

「怖い絵」シリーズなどで絵画鑑賞に新たな歓びを提示してきた著者による、 知的ユーモアにあふれ、ときにスリリングなエッセイ集。 『怖い絵』や『名画の謎』シリーズで絵画鑑賞に新たな視点を提示した著者は、芸術を、人を、どのように洞察するのか? 名画との衝撃的な邂逅や、一見穏やかに見える日常から掬い取るおかしみと歓び。 「絵を買う人々」「夫たちの怖い秘密」「幸運の前髪」「異類婚の哀しみ」等を収録した初のエッセイ集が文庫オリジナルで登場!

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◇興味深かった点

歴史好きとしては、美術のどのよう色彩が、どんな造形が素晴らしいのかについての興味は二の次三の次。(私の場合は、ね)

それよりも時代背景や、画家の素顔にもっぱら興味がある。


特に、同性の女性画家には、やはり興味惹かれる。

「再評価されるメーリアン」というエッセイには、思わず感動してしまった。

マリア・シビラ・メーリアン(1647-1717)について

ドイツ・バロック期に活躍したサイエンスアート作家の先駆者であるという。

ユーロ導入以前のドイツ紙幣500マルクには、彼女の肖像が使われていたそう。

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当時はイモムシと蝶は別の生き物で、カエルは腐敗物から自然発生する虫だと信じられていたそうな。

「薬草や昆虫に詳しいというだけで魔女狩りされかねなかった」時代において、彼女は独自の観察研究を用いて、絵で「変態」を表現し、発表したのだという。

彼女の描く絵は、精密な観察に基づいており、気持ち悪いほどリアル。

「ウルシ科のタマゴノキ」(『スリナム産昆虫変態図譜』より)
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その後、いろいろあって、南国の大型昆虫を求めて中米のスリナム(当時はオランダの植民地)まで足を運ぶ。

マラリアにもかかるが、大量の標本を持って無事帰国したのだ。

パワフルすぎる。。何だか、人生なんでもできる気がしてくる。


フローレンス・ナイチンゲール(1820-1910)について

意外な素顔に驚かされたのは、「ナイチンゲールの場合」で明らかにされるナイチンゲール像だ。

イギリス・ヴィクトリア朝時代は、看護師は知識も技量も要らない職種とされ、老いた娼婦の就く仕事とされていたという。

そんななか、富裕な生まれの彼女が周囲の反対を押し切って看護師となり、衛生状態を見直し、患者を優しく見回る「白衣の天使」像を創り上げた。


だが、実際はそれだけではないという。

クリミヤ戦争へ従軍看護師として自ら赴き、陸軍組織の不完全性を証明する報告書を提出し、看護学校の設立、看護師を養成。

そして、データの視覚化をはかり、統計学を推進した。大量の論文も書き上げた。

彼女の異名は、「足るを知らず、怒れる者」。

著者に言わせると、「実践能力の高い学者」であり、「学識ある経営者」だったと。

なるほど。

さいころ図書室で読んだ、「世界の偉人」の本にはそんなふうに書いてなかったな。。( ´∀` )

◇エッセイは面白い

美術や歴史を扱ったエッセイというのは、どうしてこうも面白いのだろう。

おそらく、書き手の知性や教養の力量が試されるからだろうと思う。


この本の著者の肩書きは、ドイツ文学者、西洋文化史家、翻訳家だ。

この一冊を読むだけで、中野京子さんの歴史、文化、言語を見つめる多角的な視野の広さを味わえる。

他の著作も読んでみようと思った。


ここからは自分の話。

読書が好きだというと、十中八九何の本読むの?と聞かれる。

取り繕う余裕がないときは、歴史とか芸術関連の本ですかね、と正直に返す。

すると、教科書みたいなやつ?と言われることもある。


受験生じゃあるまいし、誰も年表や資料集を追ってなどいないのである。

研究家や歴史小説家のエッセイや学説等を読んでいるのだ。

この誤解はそうそう解けまい。

歴史=年表じゃないやい。

点と点の出来事を線にして理解するのが、楽しいんだ。


雑学たくさん知ってるのいいね、とも言われる。

「雑」学とは、少々失敬ではないか。。




今日も最後まで読んでくださりありがとうございました!(^^♪

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