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塩野七生『皇帝フリードリッヒ2世の生涯 上』を読んで


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1ヶ月半くらいかかってようやく上巻を読破できた。

期待に違わず、最高にアトラクティブな一冊!!

 

フリードリッヒ2世が外交や学芸に優れた教養人であることは、何となく知っていた

しかし、

時は12世紀も終わり頃から13世紀にかけて、

ローマ法王の力が最大になり

「法王が太陽で、皇帝は月」であることを重んじた

インノケンティウス3世が権威を振るう

キリスト教精神が隅々まではびこる中世において

こんなにもクレバーで先駆的な考えを持った男が神聖ローマ皇帝であったとは。。

 

個人的なハイライトは、第六次十字軍のシーンだ

軍備において、万全の準備を整えながらも無血での聖地解放を目指すフリードリッヒ2世と、

カイロに本拠地を構え、イスラム世界を牛耳る内の一人であるスルタン、アル・カミールの外交交渉戦は大変に面白い

 

この人の書く戦闘は、間違いなく一級品である

読者の想像力を助ける細やかなバトルシーンの情景描写とともに、時間に沿って流れる淡々とした語り口

そして、

時折かいまみえる

愉快で人情味ある塩野七生節がいい具合に効いていた印象

 

この時代の

神聖ローマ帝国や、イタリア半島に点在する都市国家の関係性は複雑で、現代の感覚ではなかなか理解しがたい。

有力諸侯やローマ法王庁イスラム圏との貿易で富と力を得た海洋国家群が様々な因果関係で相対するのである。

 

むろん、それらを理解するための学術書としても大変に質の高い文献であるが、大河ドラマ的な物語として描かれるからには、書き手の細やかな想像力が欠かせない

その意味ではやはり、歴史小説的といえよう

 

今との間に横たわる膨大な時によって失われた歴史的空白は、

彼女の溢れんばかりの想像力を以て枠を出ない域で

難なく埋められている

読者はそれらの助けを借りて

法治国家建設を目指すフリードリッヒ2世の生涯を追体験できるのだ。

 

作家・塩野七生先生は、歴史に埋もれた偉大な皇帝の功績を私のようなラテン語ができない一般の人間にも教えてくれる、素晴らしい発見者であり翻訳者でもあるのだ

読み終わるまでに時間はかかりそうだが、

下巻もすごーく楽しみ!!

 

他作品はというと、

敬愛しているにも関わらず、お恥ずかしながら興味ある分野をかじった程度である。

チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷

コンスタンティノープルの陥落』

ロードス島攻防記』

サロメの乳母の話』

こんなものだろうか。

 

集中力が長く続かない

という私の本好きあるまじき欠点により、

ついつい短編を手に取ってしまいがちだ

 

はじめて読んだ、短編集「サロメの乳母の話」はそんな私でも娯楽本としてサクサク読めた。

そして、『コンスタンティノープルの陥落』における文構成の壮大さと緻密さに感動し、完全に先生の虜になってしまった。

 

彼女の描く地中海世界の歴史に憧れて、3年前にマルタ共和国に行ったときのことは、一生忘れない宝物のような思い出

 

長編の『ローマ人の物語』、『十字軍物語』は未だ手をつけられていない

読んでおきたいところだが、しがないOLには時間的に辛いものがある

今のところは

また何かの縁があったときに、もしくは

老後の楽しみにと、とっておこうか…f:id:Lavandula-pinnata:20200312150508j:image

 

 



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