印象をただよう告解部屋

キラリと思い浮かんだことあれこれ

アンデルセンの『絵のない絵本』は、夢見心地な西洋版の千夜一夜物語だ

デンマークの作家・アンデルセンの『絵のない絵本』という作品を知っているだろうか

1839年に初版が刊行され、幾度か物語が足されながら、最終的には33話が収録された

 

簡単なあらすじはこうだ

貧しく孤独な絵描きの青年の部屋に、月が夜な夜な光を差し込み、

青年の描く絵のインスピレーションにと、これまで見聞きした古今東西の情景を聞かせるという物語

 

文中でも「千夜一夜物語のように」という比喩があり、アンデルセンイスラム世界の御伽草子であるアラビアンナイトを意識していたようだ

 

ところで、

私がこの本と出会ったのは何と、

小学生時代の図書室だ

当時から本の虫だった私は、

広くはない図書室内にある本のタイトルをおおかた隅々まで把握していた

…ように思い出される

 

西洋史はおろか、都市の地名さえもよく知らない状態だったにも関わらず惹かれたということは、

その頃から、潜在的に詩的で美しい文章や、幻想的な物語が好きだったようだ

 

その本を最近になって再びブックオフで偶然見つけた。

懐かしいものに出会ったと思い、即購入して読み返した次第である

 

大人になってから読んだが、やはり良かった

想像上の異国の情景に胸を高鳴らせていた子供の頃の気持ちが

夏の埃っぽい図書室の臭いとともに甦ってくるような…

 

今回は、特に好きな

第12夜に描かれる情景を

矢崎源九郎氏の訳で一部紹介したい

 

 

第12夜

(※月はポンペイの墓場通りといわれる郊外の光景を「わたし」に語る。月が外国人の一団に、その光で廃墟となった都市の姿を見せて回ったシーンにて)

 

「その人たちは、小さい中庭では貝がらで飾られた噴水受けの水盤を見ました。しかし、いまは水も噴き上がってはいませんでした。」

「それは死の都でした。ただベスビオの山だけは、あいもかわらず永遠の讃歌をとどろかしていました。その一つ一つの詩句を、人間は新しい爆発と呼んでいるのです。」

 


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この絵は本とは関係ないが、わたしの好きなハンガリーの画家であるチョントヴァーリの「アテネ新月の夜、馬車での散策」(1904)という作品。

夢で啓示を受けたことから画家を志した、チョントヴァーリの夢想的な絵だ。

『絵のない絵本』を読むと、ぼんやりとこの絵が連想された。

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