印象をただよう告解部屋

キラリと思い浮かんだことあれこれ

恩田陸『光の帝国 常野物語』を読んで―ノスタルジーとSFを同時に味わえる―

蜜蜂と遠雷』、エッセイ『土曜日は灰色の馬』に続き、3冊目を読了。

蜜蜂と遠雷』とエッセイでお腹一杯になったので、著者の他作品はしばらく期間を空けようかと考えていたが、縁あって手元に届いたので読むことに。


恩田陸『光の帝国 常野物語』集英社(2000年)
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膨大な書物を暗記するちから、遠くの出来事を知る力、近い将来を見通す力―
「常野」から来たといわれる彼らには、みなそれぞれ不思議な能力があった。穏やかで知的で、権力への志向を持たず、ふつうの人々の中に埋もれてひっそりと暮らす人々。
彼らは何のために存在し、どこへ帰っていこうとしているのか?不思議な優しさと淡い哀しみに満ちた、常野一族をめぐる連作短編集。
(解説より)

収録話
・大きな引き出し
・二つの茶碗
・達磨山への道
・オセロ・ゲーム
・手紙
・光の帝国
・歴史の時間
・草取り
・黒い塔
・国道を降りて…


10話の短編集なので、各話が短く、時間を空けながらでも、少しずつ読み進められる。

読みはじめは、「常野」という共通キーワードだけを扱った、登場人物も舞台も時系列もばらばらな物語集かと思い、一話一話の世界観を切り替えるのが少し大変だったような気がする。

だが、読み進めていくうちに、「常野物語」の連作だと気付ける仕掛けがとてもいい味を出しているので、読み終わったら気にならない。

一族の不思議な日常を描いた心温まる「大きな引き出し」、サラリーマンが非日常な体験をする「二つの茶碗」、そして常野の聖地を目指す「達磨山への道」…
読者は徐々に常野の世界へと足を踏み入れていく感覚に陥る。


肝心のタイトルネームになっている「光の帝国」のあらすじを少しだけ。

舞台は、戦争の足音が近づく日本。
常野の能力を持つ子供たちが、東北の山奥に疎開に来て、共同生活を送る。
軍が常野一族の特殊な能力を戦争に利用しようと目論んでいる、という不穏な噂があり、人目を避ける必要があったからだ。
しかし、幸せな暮らしは長くは続かず…


表紙の陰鬱なデザインの正体は、これか、といった印象。

本編収録話の「オセロ・ゲーム」や、「黒い塔」でもSFでダークな世界観が色濃く出ている。
そのため、本作『光の帝国』は、少々読者を選ぶ作品かと感じた。


ただ「常野」という、柳田国男遠野物語」を意識したモチーフが、歴女心にはしっかり刺さった。
特に、常野の謎がうっすらと明らかになる「手紙」にはそんな民俗学要素が垣間見えた。
寺のお坊さんが古文書や檀家さんの話から「常野」を調査し、その報告が手紙形式で語られる物語。
日本の原風景が浮かび、ノスタルジックな気分を味わえた。

あと、短編集のエピローグ的な「国道を降りて…」もよかった。
蜜蜂と遠雷」(2019年)へと収斂されていくようなエッセンスを感じる。

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本作には、常野物語シリーズとして続編が刊行されている。
『蒲公英草紙 常野物語』、『 エンド・ゲーム 常野物語』だ。
また、機会があれば読んでみたいと思う。
では、また。


完全に余談だが、「光の帝国」とだけ聞くと、マグリットの不思議な絵を思い出す。

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《光の帝国》は、1953年から1954年にかけてルネ・マグリットによって制作された油彩作品。マグリット後期の作品で、代表作品の1つ。《光の帝国》はシリーズもので複数存在しているが、本作はベルギー王立美術館に所蔵されている作品である。タイトルは詩人のポール・ノーグの詩からとられている。 (https://www.artpedia.asia/magritte-the-empire-of-lights/より引用)

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