今回は、「世界の七不思議」というワードに胸を高鳴らせていたあの頃の気持ちになって書きたい。
ギザの大ピラミッド
バビロンの空中庭園
エフェソスのアルテミス神殿
オリンピアのゼウス像
ハリカルナッソスのマウソロス霊廟
ロドス島の巨像
アレクサンドリアの大灯台
ほぼ完全な状態で現存しているのは、ピラミッドだけではなかろうか。
ちなみに、「世界の七不思議」は、誤訳が広まったもので実際はSeven Wonders of the World「世界の見るべき七つの建造物」を指すものだったと知ったときは落ち込んだ。。
歴史短編集が好きだという話
私は、数ある本のジャンルの中でも短編小説が好きだ。
そのルーツは、おそらく小学生のころ読み漁った、星新一のショートショート作品集にある。
ブラックユーモア、寓意、風刺がセンス良く効いた作品を読むうちに、
その手の作品にどっぷりはまってしまった。
特に、今でも私は阿刀田氏の歴史関連の作品に強く傾倒している。
氏が、ユーモアと余談たっぷりに書き上げた様々な入門書(『~を知っていますか』シリーズ)が、
当時から歴史好きだった学生時代の自分に効いたのだった。
そして、歴史を扱った短編を書く作家さんが好きだ。
ここでいう「歴史を扱う」というのは、
歴史上の人物や、事件を、その時代の人物になりきって想像で補いながら、
史実と大きく違わない範囲で物語として描く、という意味だ。
(そういえば、滝沢馬琴を主人公にした、芥川龍之介の「戯作三昧」は面白かったし好きだ。)
史料をつぶさに調査するような歴史の研究家の側面がないと、なかなか書けないと思う。
執筆には大胆な着想を必要としながらも、
史実と大きく矛盾するとリアリティがなくなり、うさん臭くなってしまうからだ。
もちろん偉人の伝記も好きは好きだが、飽き性なので、ついつい色んな人物に焦点を当て、ハイライトが切り抜かれた歴史小説の短編集を手に取ってしまう。
少々のユーモアも欲しい。作家さんの研ぎ澄まされた想像で補うくらいの方が、親しみがわくというもの。
本当に気になったら、どこまで史実か自分で調べる楽しみもできるし。
…とまぁ長い前置きはこのくらいにして、
早速紹介に移りたいと思う。
阿刀田高『新諸国奇談』講談社/1999年
この本は、12の国を舞台に、古代、中世、近代におけるさまざまな伝承や民話をテーマに物語が紡がれている。
シチリアの一つ目巨人(キュプロクス)、エクアドルの乾し首、シベリアの夜の闇の深さ、サマルカンドにある不老不死の妙薬、アフリカで取引された奴隷たちの怨念…
キーワードは、伝説に基づいたようなものばかりだが、一話一話にそれぞれの国の歴史知識がちりばめられている。
単純に勉強になるし、モチーフとされる伝承や土地の文化についてさらに調べてみたくなる。
著者は、好奇心や興味を引き出すのが非常に上手いのだ。
あっという間に、不思議なブラックユーモアの渦巻く阿刀田ワールドに引き込まれること間違いなしだ。
語り口は、至って淡々としており大変読みやすい。
特にどの話も冒頭の情景描写、時代説明が簡潔で美しい。
そのなかの一部を引用する。
「駱駝の鈴、コーランの祈り、教会の鐘、物売りの叫び、羊のなく声、喧嘩のざわめき、青く澄みきった空の下でさまざまな響きが混りあい、この町の気配を作っている。
—サマルカンドは過酷な自然のまっただ中にありながら、人間たちの生活が随所にあふれている町であった。
ヨーロッパ風の時代区分を適用すれば十五世紀の末葉、栄耀栄華を誇ったチムール帝国の治世に陰りが見え始めた頃のことである。」
(「恐怖の谷」より)
阿刀田氏自身、国内はもちろんのこと、世界中の国を数々の作品の取材のため訪問されている。
諸国の土地の空気を、直接肌で感じたからこそ書ける。それに加えて作家としての想像力も計り知れない。
氏の書かれた『好奇心紀行』(1997)というエッセイを読んでも、古今東西の旅のエピソードがふんだんに盛り込まれていた。
同著には、冒頭で触れた、世界の「七不思議」のひとつ…アレクサンドロスの大灯台の跡地を訪れ、言及しているエピソードもあった。
氏は、島の端っこや岬の先端まで行ってみたくなるような、自称「末端探求症」だという。
今は亡き、アレクサンドロスの大灯台にも登ってみたかった、というようなことが記されていたように思う。
本を収集するほどの大ファンなのであるが、周囲の同世代の女性で共感してくれる人に未だ出会ったことはない。。
そういえばもう少しとっつきやすい女性作家では、塩野七海さん、原田マハさんが書かれた歴史・美術史関連の短編小説もユーモアがあって面白いので、またいつか紹介したい。
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