印象をただよう告解部屋

キラリと思い浮かんだことあれこれ

映画『真珠の耳飾りの少女』の世界

はじめに

久しぶりに映画を観ようと、アマゾンプライムビデオを漁っていたら、前から気になっていた「真珠の耳飾りの少女」という作品を見つけた。


本作は2004年に公開されている。
17世紀オランダを生きた画家ヨハネス・フェルメール(1632-1675)の肖像画の背景を書いた小説が映画化されたものだ。

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若かりしスカーレット・ヨハンソンが、
真珠の耳飾りの少女」のモデルとして描かれる主人公グリートを演じる。

天才画家フェルメールを演じているのはコリン・ファースだ。


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物語は、フェルメールの家庭に雇われた使用人グリートと画家フェルメールの間に生まれる
プラトニックでありつつも官能的な関係に主眼が当てられている。

どんよりと重くも何かを予感させるようなサントラ、
部屋の装飾や美術品、そして窓から差し込む光で魅せる画面、
ひっそりと手繰り寄せるように紡がれる人間ドラマは静かに物語を盛り上げてゆく。

(※大きく物語を通して考察するのでネタバレなるものがあるかもしれません。
これから観る方はご注意下さい。)


愛に障害はつきもの

この作品には、使用人への壮絶な嫌がらせがこれでもかと描かれている。

住み込みで働く若く美しいグリートは、フェルメールの妻カタリナ、そしてその子供たちにいじめぬかれるのだ。

フェルメールは妻子持ち(何と14人もの子を成したという)であるため、
使用人に特別な感情を抱いていたとなると
当たり前といえば当たり前ともいえるが…


寝床は地下で、階上の足音や響いて揺れるほ
ど。
画家であった病気の父が描いたタイルは割られてしまう。
極めつけには、
一家の子供にグリートが母カタリナのアクセサリーを盗んだと罠にはめられてしまう。

これにはフェルメールが激怒し、子供たちの仕業だということが発覚することでグリートの容疑は晴れるのだが、カタリナは面白くない。
余計にグリートへの風当たりは強くなる…
という悪循環。

また、グリートの純情さに目をつけた、
フェルメールの得意先であるパトロンの男に、
性的嫌がらせを受ける描写も出てくる。

グリートという人物は「真珠の耳飾りの少女」のモデルとして、人物像が創作されたキャラクターだ。
そのため、これらの設定は
フェルメールとグリートのプラトニックな愛情を盛り上げるためのそれではあるが、当時のメイドに対する扱いが色濃く反映されているようで何ともリアルであった。


画家の生活

歴史好きとしてはやはり時代描写に否応なく目が引き寄せられた。

当時のオランダは
ヨーロッパで最も早く市民社会を成しており、
ちょうど日本と交易を始めた頃である。

フェルメールは風俗画家であるが、
そのような絵を描く画家にとって、特にパトロンの存在はなくてはならないものであったといえる。

物語にも登場するピーテル・ファン・ライフェンは、
数少ないフェルメール作品の多くをコレクションしていた彼の重要なパトロンであった。

フェルメールの家庭は、多くの子供を抱え、また度重なる高価な画材のための出費により困窮にあえいでいた。
買い物に出されるグリートも行く先々でツケにしてもらっている。

そのため、映画ではパトロンの家族を招いて豪勢な食事会を開いていた。
絵の注文をとるためだ。

家計を握っていたフェルメールの義母が大変なやり手として描かれており、ライフェンをおだてあげて注文をとる様子は、なかなか面白かった。

フェルメールは言われるまま好きでもない絵を描かされ、歯の浮くような義母のライフェンに対する審美眼へのお世辞に辟易したような表情で描かれていたが。


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フェルメールの絵といえば、
フェルメール・ブルーとも呼ばれるラピスラズリを削った顔料の青が大変美しい。
真珠の耳飾りの少女」に描かれる青いターバンもその青が使用されている。

当時、ラピスラズリシルクロードを渡ってアフガニスタンから輸入されるものであり、
金に値する高価なものであった。

絵を描くにはやはり資金が必要であり、パトロンの存在は描ける絵の幅にも影響力を持っていたのだと痛感する。

光へのこだわり

フェルメールの絵は、空間表現と光の表現の習熟度で絵の制作年代が位置付けられている。

本作でも、フェルメールが窓の外を促しながら、グリートに光と色の関係を話すシーンが印象的であった。


あの雲は何色に見える?とフェルメールが問う。

それに対してグリートはこう返す。
白…いや違う。
黄色、灰色、青が混じっている、と。

陰鬱とした物語のなかで
最も明るいと感じたお気に入りのワンシーンであった。

また、本作にはカメラ・オブ・スクアというカメラの前身ともいえる、覗きからくりの箱が登場する。

布をかぶり視界を暗くして箱を覗くと、
透視図法の効果で絵が見えるという装置だ。

17世紀オランダで人気を博したというから、実際にフェルメールもこれを使って絵を描いていた可能性がある、と言われている。

二人でカメラを覗くシーンも印象的に描かれていた。


おわりに

フェルメールの絵を生で初めて見たのは、
巡回展で「天文学者」「地理学者」が来ていた時だった。

左に配置されるステンドグラスから差し込む光、そしてテーブルクロスの艶々とした質感が美しかったというのを覚えている。

二作品とも透視図法に大変優れたものである、と解説される。
私は絵は専ら「見る専」なので、美術の技法や論理についてはさっぱりなのだが、

やはり、芸術鑑賞は好きだし
フェルメールも大好きな画家の一人だ。

今回の映画鑑賞は、フェルメールという人物に深い興味を持ついいきっかけになった。

ひっそりとしていて、耽美で純情な愛の物語。

しばらく余韻に浸るような名作だったと思う。



◯参考文献
・小林頼子「フェルメール ー謎めいた生涯と全作品」(2008)角川文庫



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