はじめに
私は世界観が作り込まれているゲームが好きだ。
そのなかでもドラゴンクエストには、小さい頃から沢山の気付きと感動をもらった。
本格的に世界史、宗教学などに興味をもったのは高校時代、本を多く読み出してからだ。
しかし、
ものこごろついて、世界の広さや西洋文化、教会や神父の存在を意識し出したのはこのゲームがきっかけのひとつ。
(もちろん、ゲーム内の儀式だの、祈りだの、告白だのはあくまでプレイヤーがファンタジーに入り込むために用意された形式的なものだが)
その頃には物語の世界の話だと思っていた。
まさか未来の自分が自らの足で世界遺産に出かけ、教会やボランティアでゴスペルを歌う経験をするなんて想像もしなかったことだろう。
この度、改めてドラクエの世界に組み込まれている西洋文化について考えてみようと思う。
けしてふざけているわけではない。
ヨーロッパ中世的な組織としての宗教団体
ドラクエには、宗教施設が多く登場する。
神殿、教会、大聖堂…
ナンバリングによって、また同じシリーズでも地方によって多神教であったり、一神教らしき文化であったり様々だ。
矛盾していることも多い。
だが
個人的に最も権威を感じたのはドラクエ8の「空と海と大地と呪われし姫君」だ。
まさにヨーロッパ中世のカトリック的な世界である。
彼は神に仕える者らしく、回復魔法を得意としながらもレイピアや弓を扱い、武術にも秀でている。
そして、他にも法皇、大司教が物語のキーパーソンとして登場する。
宗教関連の建物名や地名をとっても
マイエラ修道院、サヴェッラ大聖堂、聖地ゴルドなど各々に固有の名前がついているのは、8くらいではないだろうか。
まるで、ローマ教皇を中心とした中世カトリック世界の写しのようだといえる。
異教徒から聖地を奪還する、というスローガンを掲げ、教皇が十字軍を派遣するという実際に起こっていた事象だ。
その十字軍は聖堂(テンプル)騎士団、病院(ホスピタル)騎士団、チュートン騎士団などによって編成されていた。
ファンタジー、フィクションの面白さと思っていたことが、歴史上の史実の一部分のオマージュにすぎないことがうかがえる。
これだから、歴史を学ぶのは楽しいし、きりがないのだ。
聖書のモチーフ
一神教といえば、7の「エデンの戦士たち」には実際に神様が登場するというぶっとび加減。笑
タイトルにも「エデン」とあり、プレイしていた頃はこの不思議な響きの意味を理解できていなかった。
自分達の暮らす島だけが世界の全てだと信じていた主人公らが、冒険に出て広い世界に船出するというストーリー。
アダムとイヴが禁断といわれた知恵の果実を口にし、楽園を追放されるという聖書の話と結びつけているところが興味深い。
この7は、原作のプレステ2時代、ディスク2枚に及ぶ長編だった。
町も城も国もエピソードもふんだんに盛り込まれており、世界紀行のようで大好きだ。
何故か印象に残っている物語のひとつである、ハーメリア地方で起こる大洪水。
謎の老楽士が人をさらうという不可解な話。
しかし、これは老楽士がこれから起きる大洪水を予知し、人々を守るために最も高い塔へ誘導するという行為の結果だった。
これは、ハーメルンの笛吹男とノアの箱船に着想を得ているといえる。
余談だが、
ヨーロッパ中世史の大権威、阿部謹也先生は、童話「ハーメルンの笛吹男」の話が史実に基づいた伝説であったことを論じるとても面白い論文を執筆されている。
文庫本、ベストセラーにもなっている。
歴史好きにはたまらない。
邪神信仰
人気の高いドラクエ5「天空の花嫁」には、 イブールというワニが法衣をまとった姿のモンスターが登場する。
「光の教団」の教祖であり、「イブールの本」を配布し、布教活動を行うという熱心ぶり。
子供をさらっては奴隷として、洗脳した信者を収容する大神殿を建造させるという凶悪な敵だ。
このシナリオは目の前で父親を殺された主人公が奴隷として青年期を迎えるという衝撃的な展開であった。
この「光の教団」の設定は子供心に、ゲームにしては何とも生々しくて不気味だと感じた。
モンスターではなく、普通の人々が洗脳され、皆一様にベールをかぶり、大神殿に一同に介する様子。
今なら人間集団による狂信的な宗教観に根付いた恐怖感だったのだと納得する。