印象をただよう告解部屋

キラリと思い浮かんだことあれこれ

恩田陸『蜜蜂と遠雷』を読んで ~自然と音楽の融合について〜

映画化で話題になって、
今更ながらあっという間に読破。
とにかく楽しかった、肩の力を抜きながら読めたという印象だった。
余韻が抜けないので、物語の舞台となるピアノコンクールの模様のネタバレはなしでこの本の魅力と感想を書きたいなと思う。



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著者の恩田陸さんの本を読むのは、エッセイ『土曜日は灰色の馬』に続き、本作は二作品目になる。

エッセイを読むと作者のバックグラウンドやものの考え方が何となく掴めるので、
作品への影響がかいまみえて面白い。


恩田陸さんは、教養深くも、エンタメ精神に溢れた方だと感じる。
エッセイ『土曜日は灰色の馬』に書かれていたが、音楽に映画、文学、とりわけミステリーに広く通じており、少女マンガで育ったそうだ。


蜜蜂と遠雷』では、そのあたりの洒脱な比喩やエピソードが文中に散りばめられており、流石だと思った。
主人公の一人である、栄伝亜矢の宿命めいたピアニストとしての道は少女マンガ的なところがある。
ロマンスもしっかり用意されている。


そして、著者は浜松で開催された実際の国際コンクールに何度も取材に出かけ、この作品を手掛けたという。

そのため、
作中の架空のコンクール、
舞台裏から本当にリアルに書き込まれており、ぐいぐい引き込まれた。


そして、多くの登場人物からの視点で
オムニバス形式に物語が進行するため、
語り手や舞台転換が激しいが、
私には
スピーディーで軽快な展開が心地よかった。


読み方のおすすめは、リアルタイムでユーチューブを開き、作中の曲目を流しながらコンサートの模様を楽しむことだ。


この方法は、
須賀しのぶさんの『革命前夜』という音楽+歴史+推理小説を読んだときにも試み、いいなと思った。(この本も本当に面白い!!)
映画のような臨場感が楽しめる。


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音楽の描写というのは、文字で表すのは非常に難しいだろうなと思う。
一度でも聴いたことがあれば、あーあれねと共感できるのだが。


だからこそ、
自分の知っている曲が登場人物の一人である
天然・天才肌の少年、風間塵によって
演奏されていたのが非常に嬉しかった。

ドビュッシーの版画だ。
「塔」、「グラナダの夕べ」、「雨の庭」
という三曲で構成されている。



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私事で恐縮だが、
「雨の庭」はピアノを習っていた頃に発表会で弾いたことがあるので、思い入れが強い。
あとの二曲も練習しているが、難しくて完成はいつになるのやら…といった塩梅。


この登場人物は養蜂家の息子であり、(私の最推しでもあるのだが)、メンデルスゾーン「春の歌」、サン=サーンス「アフリカ幻想曲」、バルトークなど、自然的、野性的な音楽を作中で多く弾いていた。

この少年が「音楽を外に連れ出す」ことを求めてピアノを弾いている、という設定がありそうでなかったものであり魅力的だった。


またもや私事になるが、
外で音楽をすることの気持ち良さといったら経験がある。

天気のいい日にコーラス部の活動を中庭で行ったこと。

ゴスペルを野外ステージで歌ったこと。

仲間たちと川辺や合宿先の原っぱでセッションしたこと。
映画『サウンドオブミュージック』を意識して。


全身で自然を感じながら、音楽を奏でることの気持ちの良さは格別だと感じた。


過去、イングリッシュガーデンでハープとフルートのミニコンサートを観たこともあるが、とても新鮮でいいなぁと思った。


そんなことを思い出させてくれた作品だった。


確かに、『蜜蜂と遠雷』でいわんとしているように、もっとそんなクラシック演奏会が増えてもいいと思う。

実際、外には虫もいるし、音が反響しないので自分の音が聞こえにくく難しい。

天候や楽器によってはメンテナンスの問題から現実的ではないというのもわかるのだが…

小説中の言葉を借りれば、
クラシック音楽が室内に閉じ込められるだけのものだと思わないでほしい、と。

音楽は元来、自然から発生しているのだから。



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