こんばんは。
お久しぶりです。印象ドラマの続編、できました。
今夜も印象をただよう世界にいってらっしゃいませ。
◇本文
やぁ、調子はどうだい?
どうしたの?改まって。
仕事をお休みにしようだなんて、真面目なあなたらしくないと思った。
おかげさまで告解部屋も、臨時休業よ。
私は、組織、報告のあなたと違って、
「語り部」の本質を、語ること、そのものにあると思ってるのだけど。
それも正解だよ。君もようやく一人前になったね。
ここではいろいろあったな。それなりに楽しかったよ。
何よ突然。気味悪いわ。
今日は、さよならを言いに来た。
…え?
思ったより長居してしまったが、いい区切りとなった。
待ってってば!ちゃんと順を追って説明しなさいよ。
組織からの要請でね。緊急招集だ。
私は呼ばれてないわ。
君は女性だからね。
ってことは、、軍役の要請ってこと?
違うよ。あくまで調査だ。僕のようなのにも、役割がある。
そんな、、私たちはどの土地の共同体にも属していないはずなのに。
組織がいったい何を課すというの?
僕らにも、義務は発生する。存在している限りね。
義務ですって?無益な争いに加担することが?
そう言うな。
古代ギリシアでは、軍役と引き換えに、参政権を得ていた。
デモクラツィアのもとでは、義務と権利はセット、ということだよ。
この天秤がどちらかに傾くと、ガラガラガラ、みんな揃って地獄行きだ。
トップはテヴェレ河に投げ捨てられ、デマゴジアの世に突入だ。
あなたの頭は、未だにアテネなのかしら。それともローマ?
いつもあなたは昔の話ばかり。
まぁ、こんな時代も、しばらくすれば終わるだろうさ。
次はどんなイデオロギーの対立が巻き起こるのだろうね。
まったく、わからないわ。あなたの考えは。
でも、これだけはわかる。
私たちは、、不老でなくても、不死ではないのよ。
そうだろうね。これまで流行り病にかかってこなかったのは奇跡としかいいようがない。
あなたに何かあれば、あんなに言っていた今後の使命はどうなるの。
私ひとりではできっこない。
ありのままに記してる。語っている。報告も欠かさずしている。
でもね、この作業に果たして意味はあるのかしらね。
書いても書いても、まだ書くことがある。
観ても聴いても、全然理解が追いつかない。
世界はいつも混沌として、変容し続ける。
果たして、この生き物を観察し続けることに、意味はあるのかしら。
あるさ。僕らがかき集めた事柄の集積が、いつか体系化され、
何らかの形で利用価値のあるものとして、ひとつの流れを作る。
フィクションとしてのストーリーをね。悪用されるかもしれないわ。
受け手へきちんと伝わるとも限らない。
それでも、必要なんだ。時代を生きた証言が。
為政者以外の者のね。
歴史は、勝者が残すものとは限らない。
あら、ホメロスにでもなるつもり?
まさか、僕らは偉大な吟遊詩人じゃないよ。
ただの群衆のなかのひとりの、、目撃者にすぎない。
しかしね、僕らが墓場まで大事にそれらの「想い」を持っていけば、
森に埋もれたところで、どこかの変わり者に、いつか発掘されるかもしれないよ。
今度はトロイア?
君もなかなか勘がいい。
だからね、君が言葉の発信を止めない限り、それが切なるものであれば届くのだ。
同じ思いを持つ者たちにね。
それがどれだけ小さい声であっても。もしくは拙い文字だとしても。
そうして、途切れることなく続けていれば、いつしか同時代を、もしくは後世を生きる者たちのあいだに、
それとなしに広まっていくのだよ。
それはまるで波状のように、実に静かに、この世界を浸していくんだ。
はぁ、あなたはやはり、ロマンチストだわ。気の遠くなるような世界観ね。
でも、それ、信じてみたいわね。今はじめて、そう思った。
ああ。
無力感、などと、まったくもって傲慢な話だ。
僕らの力は世界を前にして、何の即効性もない。
そんなのは、前提の話だ。
しかしね、だからといって無気力とはまた別だ。
我々は、思考と実行を止めてはいけないのだ。
・・・、もう止めないわ、あなたのこともね。
次会うときは、どこになるかしら。何年、何十年先かしら。
もしかすると、何世紀かとぶかもしれない。
ま、君もあまり根を詰めないことだ。
特に、夜は僕の領分だからね。
ええ、わかってる。じゃ、きっとまた会いましょう。
約束、できますか?
むろんだ。僕が今まで、決め事を守らなかったことがあるかい?