ホメロスが謳うオデュッセウスの漂流譚はでっちあげだ!と糾弾する妻ペネロペ。不器用で世渡りが下手な夫を嘆くダンテの妻。サロメの乳母、キリストの弟、聖フランチェスコの母、ブルータスの師、カリグラ帝の馬.....歴史上の人物の身近にいた無名の人々が、通説とはまったく違った視点から語る英雄・偉人たちの裏側。「ローマ人の物語」の作者が想像力豊かに描く短編小説集。
収録話
・貞女の言い訳
・サロメの乳母の話
・ダンテの妻の嘆き
・聖フランチェスコの母
・ユダの母親
・カリグラ帝の馬
・大王の奴隷の話
・師から見たブルータス
・キリストの弟
・ネロ皇帝の双子の兄
・饗宴・地獄篇 第一夜
・饗宴・地獄篇 第二夜
学生時代から大好きな本で、この度再読した。
どの話も、その人物をあまり知らなくても面白く読める。
歴史上の人物の身近にいた語り手を通して、その人生を愚痴混じりに語られるのが楽しい。
語り手の主観はわざと強く描かれているが、史実に大きく反することは書かれてないため、あたかも歴史史料としての日記を読んでいるような錯覚に陥る。
特におすすめの話、「饗宴・地獄篇」を軽く紹介したい。
大きく史実に反することはない、と前述しているが、この話に限っては地獄が舞台というぶっ飛び具合だ。
著者・塩野七生先生の空想力が存分に発揮されている。
ある秋の夕べに、地獄で宴が催される。この夜の出席者は、女ばかりだった。
エジプト女王クレオパトラ、ビザンチン帝国の皇后テオドラ、スパルタの王妃ヘレナ、ソクラテス夫人のクサンチッペ、マリー・アントワネット、江青女史…
地獄が責め苦というのは真っ赤な嘘で四季の区別がちゃんとあり、住民は自分が良いと思う年齢で自由気ままに過ごしている、という斬新な設定だ。
天国行/地獄行というのは、キリスト教を信ずるか否かで決まるものなので、キリスト教などなかった時代の者たちはもちろん、後世に至るまでこの人々皆まとめて地獄行というわけだ。
皆、口々に前世のこと、男のこと、政治のことについて語りあう展開がなんとも愉快だった。
第二夜の方では、日本の悪妻・悪女のことも話題に上がるのが面白い。
古代から中世にかけての西洋史に踏み込む、きっかけの一冊にいかがだろうか。
下記のランキングに参加してます。
押してくださったら励みになります(^-^)