一條次郎『レプリカたちの夜』新潮文庫(2020)
「とにかくこの小説を世に出すべきだと思いました」伊坂幸太郎激賞、圧倒的デビュー作。動物のレプリカをつくる工場に勤める往本は、残業中の深夜、動くシロクマを目撃する。だが野生のシロクマは、とうに絶滅したはずだった――。不条理とペーソスの息づく小説世界、卓越したユーモアと圧倒的筆力。選考委員の伊坂幸太郎、貴志祐介、道尾秀介から絶賛を浴びた、第二回新潮ミステリー大賞受賞作にして超問題作。
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結論から言おう。
めちゃくちゃ面白かった。好みのジャンルどまんなか。
私はミステリーをあまり読めない。
私としては、この作品は幻想文学に分類されると思う。
最初こそミステリーの体裁ではじまるものの、早い段階でこれは幻想文学ですね、となる。
くるくると、ビジョンが移り変わるところが。
しかも、哲学的で全くもって新しい。洗練されている。
無駄のないハイセンスなタイトル。
表紙に描かれたシロクマのシュールな表情と、赤と青のハイセンスな配色。
そして、伊坂幸太郎氏の帯の文句に、まんまとつられた。
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あらすじは、本当に上の引用文通り。
とくに、登場人物が魅力的だ。
工場の品質管理部に務める、往本。
被毛部にて動物レプリカの植毛をしている、同期で毛の薄い、粒山。
資材部の女性従業員で、動物愛護精神に富んだうみみず。
長身猫背で覇気のない、馬鯛工場長。
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動物レプリカ工場を舞台に繰り広げられる些末でとりとめのない、しかしそれでいて鋭くはっとさせられるような問答。
「でも動物に野蛮なところがあるのは事実ですよ。文明を持ちませんから」という粒山にたいして、うみみずは「人間みたいにバカじゃないからそんなの必要ないんだよ」と。
「だったらうみみずさんはけだもののような生き方を目指しているんですか。腹が減ったら、ほかの生き物を殺してむしゃむしゃ食い…」
「それってまさに人間がやってることじゃん。完璧な自己紹介だね」
「動物的=野蛮・未開」とするのは視野狭窄でしかないと。
往本いわく「うみみずのややこしい論」には、かの有名なパブロフの犬、デカルトの『動物機械論』、ヴォルテールも登場する。
(本書の巻末についている、参考文献の多さには目を見張った)
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へんてこだけど妙に納得のいく描写もいい。
工場周りの用水路でサケ釣り?
全身を不規則にくねらす、ぷりんぷりん音頭?
人工生命?ドッペルゲンガー?
うーん、うまく説明できないけれど、とにかく読んでほしいです。
うふふ、となる読後感。
誰かに話したい気持ちとうまく説明できないもどかしさに、悶々とすること間違いなし。
今日も最後まで読んでくださりありがとうございました!(^^♪