印象をただよう告解部屋

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なぜか懐かしい白昼夢のようなー山尾悠子『飛ぶ孔雀』の感想

山尾悠子『飛ぶ孔雀』文芸春秋(2020)

石切り場の事故以来、火が燃えにくくなった世界。真夏の夜の庭園の大茶会で火を運ぶ娘たちは、孔雀に襲われる。一方、男は大蛇が蠢く地下世界を遍歴し―。煌めく言葉が奇異なる世界へと読者を誘う。不世出の幻想作家による、泉鏡花文学賞日本SF大賞芸術選奨文部科学大臣賞、3冠達成の傑作小説。

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何度も読みすぎて、ページが閉じなくなってしまった↑

◇ はじめに

この本の魅力を伝えるのは、本当にものすごく難しいことなのですが、類いまれな読書経験のひとつとして書き残しておきたいと思います。

山尾さんの本を読むのは、『増補・夢の棲む町』『ラピスラズリ』『歪み真珠』に次ぎ4冊目。

いちファンとして、読みっぱなしでは前に進めないのでとにかく書きます。

ネタバレというのかわかりませんが、展開を知りたくない方は注意してください。


◇テーマについて

『飛ぶ孔雀』の目次は、以下のように。

I 飛ぶ孔雀
 柳小橋界隈 / だいふく寺、桜、千手かんのん / ひがし山 / 三角点 / 火種屋 / 岩牡蠣、低温調理 / 飛ぶ孔雀、火を運ぶ女I / 飛ぶ孔雀、火を運ぶ女II

II 不燃性について
 移行 / 眠り / 受難 / 喫煙者たち / 頭骨ラボ / 井戸 / 窃盗 / 富籤 / 修練ホテル / 階段 /(偽)燈火 / 雲海 / 復路I / 復路II / 復路III / 燈火

本作は、「飛ぶ孔雀」「不燃性について」の二部構成となっている。

読み始めの一文目には、シブレ山の石切り場で事故があって、火が燃えがたくなったと。

唯一この本を通して描かれる共通テーマは、この「火が燃えがたくなった」ということ。

しかし、まったく燃えないというわけではなく、場所によっては空気だまりがあるらしく、みな火の燃える地点を探しては、静かに生活している様子が描かれる。

中洲の最南端に位置するバラック住居群の煮炊き場で、七輪の火を起こす。

煙草屋の親父が営む、火種屋にて。
小銭を出して、金属製、または陶器製の火種入れの灰の中に火種を入れて持ち帰る祖母たちの姿の記憶。

家庭のガスレンジの調子は悪く、低温調理の肉料理。
車のエンジンはかかりづらい。

後半の「II 不燃性について」まで読み進めると、山の上は火がつき、煙草も吸えることがわかる。

まったくの空想的な現象なのだが、妙に納得できてしまうのは、登場人物たちが、淡々と彼らの暮らしを続ける空気感が物語を通して漂っているためかと感じる。

時間・空間はとんだり、遡ったりしながら、不特定多数の人々を追う、オムニバス形式で物語は進行する。
「I 飛ぶ孔雀」「II 不燃性について」には、ミツ、スワなど同じ名前が何度か出てくるが、読んだ感じでは、名前が同じという以外に共通点はあったりなかったり。

山尾悠子さん風にいうと。
そのことがどのような意味を持つのか、今後もはっきりと明かされることはない。のかもしれない。


◇「飛ぶ孔雀」について考えたこと

飛ぶ孔雀は飾り羽を畳み、下から茶色の風切り羽根の列をあらわして烈しく飛翔する

真夏の川中島Q庭園では、大寄せ茶会が開かれる。
夜に至れば魔界と化し、孔雀が飛ぶ。

少女らは、回遊庭園で目的地まで火を運ぶのだ。
孔雀から逃げながら。
曲水蘇鉄畑梅林...
その目的は明らかではない。

その際、禁忌があった。「目的地に至るまで芝を踏んではいけない」「止め石、別名関守石に注意」「作業用トラクターは使用禁止」等々。

それらを犯したために、少女たちは孔雀になってしまったり、性別が変わってしまったり。

私の所感としては、これらの登場人物たちはあくまで卓上のカードに過ぎない、と。

というのも途中、「島の反対側のガラスに囲まれた某所」—のちに判明する大温室で、女たちがカード遊びに興じるシーンが何度か挿入されるのだ。

そのカードは、お茶人、怪物、孔雀、石灯篭、孕み女、女子高生等々。
物語の登場人物たちだ。

そこで、「白目に星のある」スワンことスワは、「最強の札になるのかも」と言われている。

第二部の「 不燃性について」でもスワ(姓はサワ氏)という名前の研究職員および女医が登場する。

こちらのスワも、白目に星があることから同じ札として、物語に存在するらしいと考えた。

すべては、カード遊びの娯楽。

そこから紡がれる、カードを切る者たちのビジョン。

裏返ったり、ひらりと退場したり。

そう考えれば、くるくる変わる場面、場の状況、入れ替わり立ち替わりの共通性のある登場人物、モチーフに納得がいく気がするのだ。


◇全体の感想

この本を読んでいない方からすれば、ずいふん意味の分かりにくい紹介で申し訳ない。

山尾さんの作品の醍醐味、美しく緻密な文章を映像美で楽しむ感覚。

朝方にシュールな夢を見ている感覚に最も近いと思う。

個人的には『歪み真珠』の「夜の宮殿の観光、女王との謁見つき」の世界観に通じるものがあるような気がした。

意味を求めるものではない。
しかし、意味のないものでは決してない。

そんな味わいのある作品。

すべて理解をしようとするのは、きっと不可能であるし、そもそもナンセンスなことと思う。


あと、日本のような世界が舞台の話は、山尾さんの暮らされていた京都、岡山のイメージがしっくりくる。

その情景に安心できるのは、私の故郷と重なるという個人的な思い入れかもしれないが。

ともかく、このある意味恐ろしい本を読んでほしいと思う。

そして、皆さんの感想を聞かせてほしいです。



今日も最後まで読んでくださり、ありがとうございました(^-^)

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