印象をただよう告解部屋

キラリと思い浮かんだことあれこれ

空想と現実世界を描く幻想作家、ボルヘスの世界観をおすすめ

今回は、アルゼンチンの幻想作家ボルヘス(1899-1986)の作品をいくつか読んだうえで、個人的に好きだと感じた短編を紹介したい。

ボルヘスの話は、空想とも過去のエピソードとも知れない不思議な語り口が面白いのだ。

この記事を通してボルヘスの描く幻想世界に興味を持ってもらえたら嬉しい。

有名どころをおさえて読んだわけではないので、マイナーな物語もあるかもしれないが、悪しからず。

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◇目次◇

ホルヘ・ルイス・ボルヘスについて

アルゼンチン出身の作家ボルヘスは、彼の没後、のちに「マジックリアリズム」「魔術的リアリズム」などとと呼ばれる現実と非現実の交錯を、ラテンアメリカの土着文化と融合させた短編を多く生み出した。

1960年代に、ラテンアメリカ文学が世界的に流行し、彼の評価は確固たるものとなったという。
生涯を通して、円環、迷宮、時間、夢、宗教などをモチーフとした短編を手掛けている。

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ピックアップ短編

1,「不死の人」

この話は、ボルヘスの幻想的な架空の建築物の描写が発揮されていてお気に入りだ。

砂漠のかなたに、不死の人々の住む秘密の都を発見するため、テーベの庭園から旅をする話。

わたしは小さな広場のようなところへ出た。
というよりむしろ、そこは中庭らしかった。

そのまわりをふぞろいな、高さも一定しないたった一つの建物が取り囲むように建っていた。…(中略)

はじめは用心ぶかく、それからやがて無差別に、そして最後には絶望的になって、わたしはこの不可思議な宮殿の階段や石畳をさまよい歩いた。

語り手は、不死の人々の都の在りかを突き止め、宮殿を探索する。
「出口のない廊下」、「手の届かない高窓」、「段と手すりが下に向いている信じられないような逆さ階段」などを見ているうちに、徐々に疲労と恐怖に駆られていく―

まさに、求める幻想文学!といった世界観だった。
「不死の人々」が造ったという、古びきった目的のない宮殿のモチーフは、やはり異常で狂気的な雰囲気がある。

2,「彫像の部屋」

ボルヘス曰く、千夜一夜物語の一部らしい。

その昔、アンダルシア王国で代々の王が居を構えていた時代のこと。
その街には開かずの城塞があった。

あるとき邪悪な男が王権を簒奪し、城塞の中身を見たい、という。
おきて破りだと、周囲が止めるのも聞かず、この暴君は代々の錠を壊し、城の中へと入った。

第一の部屋には、みな一様に西の方角を向いた金属や木製のアラビア人の像があった。
ターバンを垂らし、新月刀を腰に携え、長槍を手に、駱駝や馬に乗る者が。

そして、次々と部屋を進み、ついに第七の部屋では、恐ろしい銘文が刻まれていた。

「もし何人かの手がこの城の扉を開くならば、入口の彫像の戦士に生き写しの生身の戦士によって、その王国は滅ぼされるであろう」

そして、その年のうちに、その銘文通りの出来事が実際に起こるのだった―

ボルヘスの短編には、『千夜一夜物語』の本がたびたび登場する。
数々の構成や作風にも、随所でそれらの影響が感じられる。

どこどこで「こういう話を聞いた」とか、無名の人の「こんな記述を読んだ」とか。

3,「他者」

70歳を過ぎたボルヘスが、20代のころの自分と出会い、驚きながらも話かけるところからはじまる。
それは、ケンブリッジのチャールズ川のほとりで交わされる。

すぐに若かりし頃の自分だと確信した老ボルヘスは、彼のその後の家族のことや、起きた歴史のことについて語った。

青年ボルヘスは、半信半疑ながらも、おずおずと質問を繰り返す。

「で、あなたは?」
「君が、これから何冊本を書くかは知らないが、多すぎるということだけは言えるね。自分だけの楽しみとなる詩と、幻想的な短編を書くことになるだろう。」

流れるような会話が心地よかった。
自身のことを書いているため、現実と非現実が違和感なく溶け合っている。
ボルヘスが、青年ボルヘスの本好き臭い言い回しに対して、「やはり、ちっとも変わっていなかったのだな」と感じた描写に、少し心がじんわりした。

おわりに

ボルヘスの本は、難解で固有名詞も多く、読みにくいという意見も多い。

読み始めて、確かにそうかもなぁと感じた。
しかし、一度平気になってしまえば味わい深く読める。

むろん、目を通した作品すべてを理解することは難しいが。
私の場合、5話分読んで1話くらいの割合で何となく理解できる、くらいだった。

この記事を読んで、少しでも興味を持っていただけたら幸いである。

ちなみに、氏の代表作ともいえる、「砂の本」、「アレフ」に関しては、以前の記事で紹介しているのでこちらの「ボルヘス」の項目を読んでいただきたい。

lavandula-pinnata.hatenablog.com

一人称が、自分の話も多いので、読後はボルヘスの目を通した世界を追体験したような気持ちになる。

そういえば、晩年のボルヘスは盲目同然で口述筆記で作品を出していたという。

「案ずることはないよ。徐々に盲目になるのは悲劇じゃあない。夏の、ゆっくりした黄昏のようなものだ」

「他者」の作中において、老ボルヘスは青年の自分にこう言い残して別れていたのが印象的だった。

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◇引用文献◇
『不死の人』(1996)白水社/ホルヘ・ルイス・ボルヘス/訳=土岐恒二
『砂の本』(2011)集英社/ホルヘ・ルイス・ボルヘス/訳=篠田一士

今日も最後まで読んでくださりありがとうございました(^^♪

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