たとえ世界中が敵にまわっても、僕だけは味方だ。 公衆浴場で赤ん坊を預かるのが仕事の小母さん、 死んだ息子と劇場で再会した母親、 敬愛する作家の本を方々に置いて歩く受付嬢、 ひ孫とスパイ大作戦を立てる曽祖父——。 取り繕うことができない人々の、ひたむきな歩みが深く胸を打つ。 あなただけの〈友〉が必ず見つかる。静謐で美しい傑作短編集!
収録話
「先回りローバ」
「亡き王女のための刺繍」
「かわいそうなこと」
「ひとつの歌を分けあう」
「乳歯」
「仮名の作家」
「盲腸線の秘密」
「口笛の上手な白雪姫」
小川洋子さんの本は、始めて読んだ。
『博士の愛した数式』、『ブラフマンの埋葬』など、気になってはいたのだが、初めて読むのは短編集がいいかなと。
何より、書店で表紙のデザインに惹かれたというのが大きい。
どの話も面白く読んだが、個人的に好きだった話は「先回りローバ」だ。
「先回りローバ」は、乞音症の「僕」の話。
両親が子供の生まれた日を6日間あとに延ばしたことで、できてしまった空白の期間。
そのせいで「言葉が追い付かなくなってしまった」という。
その僕の前に現れた、小さな可愛い老婆。
「老婆、ではなくローバとお呼びください」と訴えるそれは、ホウキとチリトリを持って、僕の消えてしまった言葉を拾い集めては、エプロンのポケットに溜めていくのだった。
僕とローバのやり取りが繊細で可愛らしい。
優しい視点が、とても心に染み入った物語だった。
表題の「口笛の上手な白雪姫」は、公衆浴場のおばさんの話だ。
彼女は、赤ん坊連れのお母さんがゆっくりお湯につかれるようにと赤ん坊を預かる仕事に定評があった。
タイトルの白雪姫とは、この彼女のことだ。
年こそ若くはないが、肌が白く、公衆浴場の裏にある七人の小人の住まいのような可愛らしい小屋に住み着いているのだ。
彼女は、どんな子でも実にうまく赤ん坊たちをあやす。
その秘密は、赤ん坊にだけ聞こえる不思議な口笛の才能にあったのだ。
どのお話も日常に溶け込んだ空想的な視点が、切なくも優しい。
心がきゅっと締め付けられるようなお話から、思わず頬が緩むお話まで。
(「仮名の作家」では何度か笑ってしまった)
砂浜でキラリと綺麗な色硝子を拾うような感覚をたくさん味わえる。
次は、泉鏡花賞受賞作の『ブラフマンの埋葬』を読むと決めている。
今日も最後まで読んでくださり、ありがとうございました(*^^*)