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須賀しのぶ『芙蓉千里』感想—時は1900年代。哈爾浜。妓楼・酔芙蓉を舞台に繰り広げられる女郎たちの哀歓—

須賀しのぶ『芙蓉千里』角川書店(2012)

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「大陸一の売れっ子女郎になる」夢を抱いて哈爾濱(ハルビン)にやってきた少女フミ。妓桜・酔芙蓉(チョイフーロン)の下働きとなった彼女は、天性の愛嬌と舞の才能を買われ、芸妓の道を歩むことになった。夢を共有する美少女タエ、妖艶な千代や薄幸の蘭花ら各々の業を抱えた姉女郎達、そして運命の男・大陸浪人の山村と華族出身の実業家黒谷……煌めく星々のような出会いは、彼女を何処へ導くのか!?

『革命前夜』(2015)で須賀しのぶさんの描く世界に恋をした。
時間をかけて読みたいと思い、大事に取っておいたこの本をようやく読み切れて感無量である。

舞台は、日露戦争直後、現・中国ハルビン

今回も歴史の流れを汲んだ時代背景となっており、1900年代の哈爾浜を舞台にしたスケールの大きい大河小説だった。

哈爾浜駅の周辺には、ロシアの中央寺院(サボール)があり、主人公のフミは冒頭でそれらの建築を見て「ネギ坊主がお空に生えとる」と。

ロシア人と移住してきた日本人の住まうプリスタン、支那人の住まうフーシャデンと地区がわかれており、支那語とロシア語と日本語が入り乱れているという。

須賀しのぶさんは、大学で史学を専攻されていたため、物語の流れに歴史描写を組み込むのが非常に巧みだ。
おそらく近現代史を熱心に研究されていたのではあるまいか。

美しくも儚い女郎たちの運命

物語の感想に移るが、女郎の個性が豊かなこと…美人博覧会さながらだ。

源氏物語もそうだが、色々な種類の美人が出てくる作品に目がない私としては、目移りするような華麗さだった。
(憧れの女性がたくさんという意味で、だが笑)

酔芙蓉では、日本人女郎しか雇わないことを売りにしていた。
この店では花の名前の源氏名が付けられる。
清楚で教養高い蘭花、艶やかな美貌の牡丹、奇妙な力を持つ狐憑きの春梅、気性の激しい桔梗…

まさに咲き誇る百花繚乱の妓楼の様子が描かれていた。

しかし、哈爾浜駅で伊藤博文が暗殺されて以来、あたりの雲行きが怪しくなる。
歴史の趨勢に翻弄される酔芙蓉。
そして、絶ちきれぬ過去や恋に苦しむ女郎たちの哀しい運命。

女同士のどろどろとした妬み嫉みは日常茶飯事。
年期が開けるまで、外に出ることは許されない。
客との報われない恋に身をやつす。
心を病む、阿片に溺れる、自ら命をたってしまうこともこの世界では珍しくないと女将はいう。

芙蓉千里の魅力

この本は、辻芸人の少女だったフミが大陸にわたり、芸妓・芙蓉となり、二人の魅力的な男性の間で心揺れ動く展開、という少女漫画的な読み方もできる。

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ここでの「芙蓉」は蓮の花のこと。

しかし、酔芙蓉という女郎屋を舞台に描かれる、女郎たちの各々の胸中と人生に、私は一番引き込まれた。

江戸時代の吉原などの遊郭の花魁の世界が、異国の土地で繰り広げられるとは。

本作はシリーズものとなっているので、フミの行方を追って、また続きを読むことだろうと思う。

歴史好きさんに、是非ともおすすめしたい一冊。


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今日も最後まで読んでくださり、ありがとうございました(*^^*)


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