印象をただよう告解部屋

キラリと思い浮かんだことあれこれ

言葉の美しさ、辞書づくりのドラマに感動。2012年本屋大賞受賞作、三浦しをん『舟を編む』を読んで

三浦しをん舟を編む』光文社(2015)

出版社の営業部員・馬締光也は、言葉への鋭いセンスを買われ、辞書編集部に引き抜かれた。新しい辞書『大渡海』の完成に向け、彼と編集部の面々の長い長い旅が始まる。定年間近のベテラン編集者。日本語研究に人生を捧げる老学者。辞書作りに情熱を持ち始める同僚たち。そして馬締がついに出会った運命の女性。不器用な人々の思いが胸を打つ本屋大賞受賞作!


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三浦しをんさんの作品を読んだのは、ずいぶん前に『きみはポラリス』新潮社(2011)を読んだのに次いで二作目だ。

『きみはポラリス』が恋愛短編小説だったのに対し、
今回の『舟を編む』は辞書作りに携わる人々の奮闘劇だ。

要所要所で恋愛模様も描かれているが、くすっと笑えつつ、辞書作りに携わる人物たちの人間味を感じる欠かせない要素だった。

何より、作者の言葉にかける思いがあふれる物語だった。

本著には、言葉を説明する難しさ、そして面白さが登場人物の心情を通して説明される。

例えば、「あがる」と「のぼる」の言葉の違いについて、
主人公である馬締(まじめ)が感得する場面。
馬締が恋焦がれる女性・香具矢から遊園地に誘われたときのことだ。

「天にものぼる気持ち」だと感じた瞬間、
「あがる」は上方に重点が置かれているのに対し、
「のぼる」は上方へ移動する過程に重心が置かれているのだ、
と彼は気づく。

「天にもあがる気持ち」とは言わない。自分の気持ちはまだ上昇途中であり、天界まで到達したわけではないのだから、と。

このように、言葉の深みに潜り込めるのが面白い。

タイトルの『舟を編む』というのも、
果てしない言葉の大海を渡る舟のような、万人に向けた辞書を編む、というところからきている。


普段何気なく使っている言葉を、誰もが絶妙なニュアンスや含みによって使い分けていることに気づかされた作品だった。

オムニバス形式で、辞書編集部のいろんな人物の視点から物語が進行するのも面白い。

私は、このオムニバス形式というのが大好きだ。
バラエティ豊かな面々に共感し、彼らの心情を覗き見れるのは、読書の醍醐味だと思う。

繊細で美しい表現が多くも、笑いあり涙ありの奮闘記。

人生をささげるに値する仕事や目標があるというのは、本当に素敵なことだと感じた。

特に、言語に関心のある人方には強くお勧めしたい一冊。
読んだ後には、自分も編集部の一員として辞書作りを見届けたような達成感。そして、感動で久しぶりに泣けた。

映画は心に刺さらなかった

改めて本著は、なぜこれまで手に取らなかったのか…というくらい、好みど真ん中な作品だった。
いや、本屋で見かけるたびに気になってはいた。

数年前のことだが、おそらく、実写映画化が決まってからの宣伝広告のイメージが強すぎて無意識に避けていたのかもしれない。
当時から映画が注目を集めていた印象だった。

文庫本の帯やカバーに映画版の写真が採用されているのがどうも苦手なのだ。
むろん、映画は映画で楽しめるものだと思う。
しかし、どうも先に役者のビジュアルを提示されるのが自分の楽しみ方にとって好ましくない。

映画の話題も薄れてきて、今頃になって読んだ次第である。

一応、原作読了後に知り合いに勧められて、映画も見てみたが…

やはり、ドラマと同じく、邦画の演技は苦手だ。。これは、完全に私が悪い。
どうにかして克服したいものだ。
役者は豪華キャスト、雰囲気を楽しむ分にはとてもいいと思う。
役作りはすごく凝っているし、ヒロインは非常に可愛い。


だが、どうしてもエンタメ寄りに作り替えてある感が拭えない。
私が今回感銘を受けた、言葉に思いを馳せる数々のシーンはことごとく削られていたのだった。
本と映像の強みが違うだけ、と自分に言い聞かせた。


今日も読んでくださりありがとうございました。ではまた。
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