印象をただよう告解部屋

キラリと思い浮かんだことあれこれ

魅惑のアラビアンナイトの歴史に迫る


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はじめに

なぜ人はアラビアンな世界に惹かれるのか?

ディズニー映画『アラジン』もウィル・スミス主演で実写化を果たし、大人気だった。
音楽、情景描写、衣装、どれをとっても、
私たちの文化とは異質なもので、しかし
妖しくも美しいのだ。
今回は、歴女の目線でアラビアンモチーフの魅力のルーツについて論じていきたい。

西洋人にとってのオリエンタリズム

このような「東洋的なるもの」に惹かれるのは、西洋人に端を発する。
我々がうっとりしているのは、
かつてヨーロッパ世界の人びとがイスラム世界の文献を翻訳し、旅して書き連ねたイメージだ。
西洋人の目を通したオリエント(中東)の世界。

イードの『オリエンタリズム』(1978)では、西洋人の東洋趣味は帝国主義的、人種主義的思考であると斬り込まれている。

中世

キリスト教世界から見たイスラム教信者のムスリムは、蛮族であった。
そのため、征服対象であり、脅威でもあった。

地中海沿岸はムスリムの海賊が海を越えてアフリカ大陸から攻めてくるため、監視塔をいくつも設置し、常にその襲来に備えていた。

その一方、14世紀のルネサンス以前において、
科学はイスラム世界の方が優れていた。
イタリア商人のレオナルド・フィボナッチが「ゼロの概念」のあるアラビア数字をヨーロッパに紹介し、商業が飛躍的に発展したのは有名な話である。

当時、西洋世界ではローマ法王庁は、
アラビア数字をイスラム世界の悪しき文字とし、勝手の悪いローマ数字(I, II, ...V, VI, ...X)を推奨していたのだ。(塩野七生『皇帝フリードリッヒ2世の生涯』より)

このように中世では
追い付け追い越せといった感じで、西洋と東洋は完全に文化の異なる地域として、聖地エルサレムを巡り攻防戦を繰り広げていた。

近世・近代

しかし、西洋世界では14世紀を機に、
暗黒の中世を脱し、北イタリアを中心に文化の大爆発が起きる。
つまり、芸術、精神、科学、その他あらゆる方面において革新的な進歩を遂げたのだ。
イスラム世界の文化が衰退の一途をたどりはじめるなか、今度は西洋世界が文化を牽引してゆく。

そして、18世紀末~19世紀にヨーロッパで流行したロマン主義という風潮。

産業革命で都市の発展が急激に進むなか、疲れきった人々。
退廃的、耽美的なモチーフがもてはやされ、
本来の自然の奔放さや神秘的な風景、情緒的な物語に愛惜の念を持ち、空想に浸る時代。

この風潮と東洋趣味、オリエンタリズムの相性は、抜群に良かったといえよう。
当時、欧州は植民地合戦を繰り広げ、
征服地の文化を見下しながらも、
文明の及んでいない手付かずの自然状態として理想的だと持て囃していたのだ。

民俗学民族学の体をとった、うさんくさい研究が流行したのもこの頃であった。(妖精やらジプシーやら小人やら)

イスラム世界の説話集である「千夜一夜物語」がはじめてヨーロッパで翻訳されたのが18世紀初頭。

1888年にはロシア作曲家リムスキー=コルサコフが「交響曲シェヘラザード」を完成させた。
シェヘラザードは、千夜一夜物語の語り手である姫の名だ。

異国情緒溢れる旋律は、
優雅でいて、ところどころ不協和音のような危うさをはらんでいる。
匂い立つような「オリエント風」の甘さと闇が共存している。

ファンタジーとして

要するに我々は、
アラビアンナイトのファンタジーを強烈に植え付けられているといえる。
魔法の絨毯、人語を解する猛獣、三日月刀を携えた盗賊たち。
完全なる別の美しい世界の映像として、
安全なところから雰囲気と世界観だけ享受していたい傲慢さがある。
イメージで片付ける。それで満足しているのだ。

地中海を隔てて対峙していた西洋人さえ、東洋趣味として手放しに、野蛮で官能的なイメージを持て囃していたのだ。
音楽に至るまで、オリエンタルな旋律の定型を造り上げてしまっている部分もあるのでは。
非ジプシーの人びとが「ジプシー風音楽」を造り上げて、クラシック音楽に取り入れまくった流行のように。

おわりに

さて、今回は西洋からみた東洋趣味について時代に沿って、私が何とか手の届く範囲で追いかけてみた。
東洋とはいえ、極東に位置する日本の我々にとって、アラビアの文化はやはり、理屈抜きで神秘的に映る。
観光大国であるドバイに行った時でさえ、はじめて見る本場の装束姿の人々に衝撃を受けたものだ。
世界はひとつといえど、文化というものは思想や習慣を決めてしまう尺度となるのだと実感した。


話の趣向は少し外れるが、
東京ディズニーシーのエリアのひとつである
アラビアン・コーストはブルーモスクのような建物がインスタ映えスポットとして人気だ。
夕日をバックたたずむ姿は確かに美しいし、日本にいながら、なかなかの異国情緒を味わえる。


ディズニー好きな若い世代にとって、あの風景は「アラジン」の世界なのだ。
そして、旅番組で見るトルコやモロッコウズベキスタンの風景は、「まるで、アラジンの世界のよう」と映っている。
逆だ、逆。

これら、まさにアラビアンナイトの罠といえよう。
とりあえず、千夜一夜物語を通して読むところからはじめるか。
と思ったが、
今、本棚にあるのは我が敬愛する阿刀田高氏の「アラビアンナイトを楽しむために」(1983)という初心者にもやさしい入門書のみであった。


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